ナイキのピョンピョンシューズ
マラソンにおいてトップ選手たちがこぞって使い、好記録に貢献しているといわれるナイキのヴェイパーフライというシューズが話題だ。
厚底シューズなどとも呼ばれ、飛ぶように走れるという性能にも注目だが、世界陸連がこの厚底シューズの大会での使用を規制するのでは?という報道がなされたことで物議を醸している。
確かに選手の技量ではなくシューズによって記録が伸びているのでは?という点に競泳界でもかつてあった低抵抗水着であるレーザーレーサーの一件を思い起こさせる。
一方で、僕がヴェイパーフライの説明を聞いていて思い出したのは、日本のエジソンと言われ、フロッピーディスクなどの発明者としても知られるドクター中松がかつて開発した、このちょっとおちゃめなピョンピョンシューズだった。
ドクター中松のピョンピョンシューズほどその姿形はファンキーではなくシリアスな設計のヴェイパーフライだけれど、似ているのは内部構造だ。
厚底の途中にカーボンファイバーでできたプレートを埋め込み、この弾性を利用して着地荷重をカーボンプレートの変形として蓄え、次の一歩に利用しようという考え方自体はまさにピョンピョンシューズだと思うのだ。
プロアマ問わず「ふわふわと足が軽くなり、まるで誰かに押されているようだ」というインプレッションが多く、このバネ効果を表現しているように思う。
逆に言えば陸連は厚底を禁止すべきと考えているのではなく、このバネ効果のある素材の利用について制限する必要があると考えているのだろう。
右の黒いミドルソールがカーボン製で力を蓄える
その意味では、ドクター中松のピョンピョンが世に広く普及することはなかったが、21世紀になりヴェイパーフライの登場によって、その理論の正しさは陸上の世界で証明されたと言っても良いのかも知れない。
このポスターを見るとドクターは競技用ではなく個人移動手段と考えていたようだが、スケボーやキックボードにかなわなかったみたいだ。
このシューズが身体の能力を増幅し記録を伸ばしているのなら、僕は競技スポーツとはまったく別の観点から今後、更なる開発を期待したいと思う。
なぜなら、何も動力を使っていない身体のエクステンションだからだ。僕にはスポーツの定義だとか競技の公平性とかは論じられないが、人に何か工夫したものをつけて本来よりも優れた機能を発揮するのなら、ある意味万人に効果のある自助具みたいなものじゃないかと思うのだ。
人力をうまく利用して生身の人間よりも効率よく、飛んだり、はねたり、走ったり、泳いだりすることはCO2排出を抑え、温暖化対策にもなるだろうし、ある意味で、水泳のフィンや自転車などと同様で人類の偉大な発明品として新たな歴史に加えるべきなのかもしれない。
ドクター中松のやんちゃ精神は今に生きていた
そんな意味では車椅子もそうなんじゃないのか。
歩くよりも車輪で転がることのほうが平坦な道では消費エネルギーが小さく合理性が高いのだ。
マラソン界でエリウド・キプチョゲ選手が人類では不可能だと思われた2時間を切って世界を驚かせてみせたが、人力で42.195kmを走るには、実はもっと速い方法があるのだ。レース用の車椅子だと50km/h近い平均速度が可能であることからフルマラソンコースで1時間はおろか50分を切ることさえ夢ではないのだ。
この人類夢の記録に厚底シューズが使われたって、レース用車椅子が使われたって人力で出した記録には間違いないはずだ。
道具の進化が大気も汚さず人類を幸福にできるのなら、その研究はオリンピック競技とかとは別にどんどんして進んで欲しいです。人類の至らぬところが進んだ道具でカバーされる。そんな時代には障害という意味自体が今とは違った見方になるはずです。
ちなみに「手であが~る」も動力を使わず人力をうまく使うことで、簡単には持ち上げられない車椅子を楽に浮かせています。最後の一行CMで~す。